2018年9月15日土曜日

空飛ぶロボットは黒猫の夢を見るか? part 2

息継ぎとパワーフレーズ • ここ最近、色々なシーンでプレゼンを打つことが増えたが、小説とテレビCMを注意深く観察するようになってから、プレゼンに対する評価が良くなった。小説やCMとプレゼンの関わりについて少し書こう。 • 小説にはストーリーがある。そのストーリーの良し悪しによってその本が手に取られるかが決まると言って良いが、作家というのは実はそれを目的としているわけではない。伝えたいメッセージというものがあり、そのメッセージを潜り込ませるのに必要な世界観と人物像を用意し、キャッチャーなストーリーでラッピングして棚に並べるのだ。「美味しそうなお菓子ですよ。一口いかが?」というわけだ。甘いそれの中には、いつまでも身体に残る「毒」が入っている。 • この毒は作中で、最も力のある言葉で語られる。印象的なキャラクターのセリフ、熱っぽい地の文に、ここぞというタイミングで登場する。私はこれらの作家が叩きつけてくる「パワーフレーズ」をこよなく愛している。私にとって「小説を読む」とはパワーフレーズを「拾い読み」するのとほぼ同義と言って良い。 • 私は作家に聞かれたら殺されかねないような読み方をしている。まず、本の真ん中を開きその見開きを読む。文体、すなわち書き手のテイストが合わないと思ったら、そっと閉じる。よく、「最初の数ページを読んで面白かったら〜」みたいなハウツーを目にするが、最近の本は最初の20ページは必ず魅力的に書いてあるのであてにならない。息切れして地が出てくるあたりがちょうどいい。地の文のテイストに抵抗がなければ、巻頭に行く。初めの10分くらいを読んで、登場人物がそれとなく揃って来たら、いきなり最後のページを読む。それで大体のあらすじがわかる。あらすじが面白くないなと思ったら、そっ閉じ。この時点で面白くできていない本は、いわばテクニックが足りていない。そんな本は全部読んでもパワーフレーズには出会えない。あらすじが面白いなと思ったら、最初から斜めに読む。不思議なことに、着地点を知っていて小説を読むと、作家がストーリーをどうやって構成しようとしたかがよくわかる。小説においてほとんどの単語は、ストーリーを構成するためのパーツとしての機能を与えられているが、それらの中で機能とは別に「どうしようもなく主張の激しい文章」というものがチラホラ出現する。それが私の愛するパワーフレーズだ。 • とても興味深いことにそれらのパワーフレーズは、そこだけ取り出してもインパクトを維持していることが多い。これらのフレーズの構造を解析し、自分の主張をその構造に乗せて文章化すると、驚くほど多くの人が自分の主張に共感してくれるようになる。そこにはロジックも何もない。私が思うに、表現者は相手を説得してはいけない。パワーフレーズで相手の心を殴りつけ、その隙間にメッセージを挟み込むのだ。これはすべてのプレゼンに共通するテクニックだ。まずは聞かせる。そして聞いてしまうとメッセージを刷り込まれてしまう。これが基本だ。 • この基本を守りつつ、テレビCMの技法を取り入れるとプレゼンは凶器になる。CMは一種の暴力装置だ。誰もが見たくないと思っているにもかかわらず、あの短い時間の中で目と耳を刺激するすべての方法で我々の脳に特定のメッセージを刻み付けてくる。とりわけ悪質なのは、CM特有のあのテンポだ。早いものもあり、ゆっくりなものもある。ただ、どんなテンポでも、例外なく聞き手の「心の息継ぎ」を狙っている。人間は一定のスピードで情報を入力されると、無意識にそのスピードに思考を合わせる性質がある。そのあたりで一瞬溜めてやると、その瞬間は何も考えなくなる。これを心の息継ぎと私は勝手に呼んでいるが、テレビCMはこの息継ぎを作為的に作る技術の博覧会だ。ほとんどのCMが、この瞬間に転調とともにキーワードを叩きつけてくる。このタイミングで先ほどのパワーフレーズを叩き込めば、あなたのメッセージは必ず相手に刺さる。 • 以上の原則を踏まえて、プレゼン準備にあたり気を付けているポイントを書いておく。 • 1) プレゼンは内容ではなくメロディーで構成する。 • 例えば45分の講演なら15分のメロディーを3つ作り、小気味よいテンポに分解して5分くらい毎に息継ぎポイントをつくる。この作業は車の中でやるのがいい。まるで念仏みたいにモニャモニャ唄う。これがベースのメロディになる。講演の準備ではこのメロディー作りに一番時間をかける。このメロディがうまく作れれば、内容に関係なくプレゼンはウケるのだ。具体的なスライドは後からはめ絵のように配置するだけでよい。息継ぎポイントにはパワーフレーズが配置されるが、文脈上特に重要なメッセージを置かなくてもよい時には笑いを取りに行く。このポイントでは不思議とウケる。 • 2) メロディーに載せる内容に一貫したテーマを与える。 • 人間は同じ話を長時間聞いていられない。必ず飽きる。だからメロディーを変える時に内容も変えてやらなくてはならない。しかし人間は関係ない話も同様に長時間聞いていられない。だから今の15分のメロディーの内容が先のメロディーの内容とどう関係するかを明確にする。関係なくても関係があるように構成する。一つのテーマを提示し、「今日はこの話をしますよ」というストーリーでラッピングしてやる。それで聴衆は安心してストーリーをいつまででも楽しんでくれる。 • この二点を押さえておけば、講演は大体ウケる。 • • 最後に、あなたのプレゼンがパワフルなものになっているかどうかを判断するポイントを二つ書いておく。まず誰かにスライドを渡して、プレゼンしてみてもらうとよい。あなたのメロディーを知らない人には唄えないはずだ。唄われるようではそれはまだデータとロジックの羅列だ。ためになる内容であったとしても、エンターテイメントの域には達していない。次のポイントは、プレゼン後の聴衆の感想だ。具体的な内容の話をされるようではまだ足りない。最終的には「面白かった」しか言われなくなるはずだ。細かい内容についてのあれこれは、あなたのプレゼンを聞いてビジネスオファーを持ちかけてくれたクライアントとじっくりやればよい。おそらくそれがプレゼンの究極的な目的であるはずなのだから。

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